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大阪地方裁判所 昭和40年(ミ)1号 決定 1965年2月10日

申請人 株式会社田中電機製作所

主文

関西電力株式会社に対する債務弁済についての本件申請を許可しない。

理由

申請人は、さきに当裁判所が昭和四〇年一月一九日付保全処分決定をもつて、あらかじめ当裁判所の許可を得た場合を除き弁済を禁止した債務のうち、関西電力株式会社に対する別紙明細書<省略>(一)の金七七、二〇五、一三九円の債務につき同明細書(二)の方法による分割弁済の許可を求めた。

当裁判所は、従来、他の会社更生事件において、更生手続開始前に、いわゆる弁済禁止の保全処分決定をしている場合、電力料金の弁済については許可を与えてきた。しかし、これは当裁判所が会社更生手続開始決定をした場合に、開始決定前の電力料金債権が共益債権となると解していたからではなく、金額が比較的少ない場合にまで送電停止の事態を起して無用の摩擦を生ずることを避けた処置にすぎない。

会社更生事件における電力料金債権についての当裁判所の見解は、つぎのとおりである。

更生手続開始決定以前の原因に基づく債権は、開始決定後は、原則として棚上され、更生手続によらなければ弁済を受けられないものであり、たゞ、会社更生法所定の例外があるだけである。電力料金債権については、同法に特別な規定がないこと及びいわゆる公租公課さえも右の原則的な制限(例外はある)に服するものであることを考慮すると右の例外、即ち共益債権とみることはできない。たゞ、他の債権者は、信用取引を停止し得るのに、電力会社は、独占公共事業のため、会社更生手続申立をなされても、料金後払による電力供給を停止し得ないのであるから、申立日以後の電力料金は、共益債権と解するのが相当である。

電力料金を支払わない場合には、一定の要件のもとに送電停止処分がなされる(電気供給規程VIII、59、(1) 、(2) )から、更生手続開始決定前の電力料金債権がすべて共益債権となる旨の見解もあるが、当裁判所は、これを採用しない。右規定にいう需要家が電気料金等を支払わない場合というのは、需要家が自己の責任において支払わない場合を指すのであつて、需要家が法律の規定またはそれに基づく裁判所の裁判に従つて支払わない場合を含まないことは、債務不履行による債務者の責任を問うには、例外規定なき場合には、その不履行が債務者の責任に基づくことを要するとの民法の原則からも明らかである。

以上の次第であるから当裁判所は更生手続開始申立日以後の電力料金債権のみを共益債権と認め、その前日迄の債権はすべて更生債権と解するのである。尤も更生債権に付ても特別の事情のあるものに付ては、保全処分に拘らず例外的に弁済を許可する場合もある。しかし極めて多数の利害関係人を擁し、公共性の色彩が顕著な会社更生事件において、本件のごとく更生手続を開始するか否かの決定に直接影響のある程に多額な電力料金債権である上、本件申請にかかる分割弁済は、今後三一ケ月にわたり毎月金二五〇万円宛の支払というのであるから、更生手続開始迄の期間においても右の支払は債権者間の公平平等を著しく害するものである。更に将来更生手続が開始された場合を想定すると、更生債権の性質上、全くその支払は許されないと解するほかはない。従つて金額が多いだけに電力会社としても重大な問題であることは十分考慮に入れても尚且当裁判所としては、保全処分の例外を認めて、右の弁済を許可することはできない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 沢井種雄 道下徹 藤本清)

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